朝帰りの休息

ときめきと狂気のはざま

かわいそうな本

昔塾に通っていた。

 

全体的にはすごく成績が悪いというわけではなかったが、

算数がとにかく大の苦手で(国語は得意だった)そのため塾に通わせてもらっていた。

 

とくに思い出もなにもなく、ただ勉強しに行っていただけだが、最近になってふと思い出したことがある。

 

ソフィーの世界

私が初めて読んだ哲学書…と言ってもいいのかもしれない。

なんだかわかるようなわからないような。

面白いわけでもないけど面白いような気もする。

でもわかりたい、そういう気持ちになったように記憶している。

 

どうしてだかその本の話になり、私は塾の先生にそれを貸したのだ。

 

貸したまま返ってこなかった。

 

私が塾を辞める日、先生は表紙がボロボロになった『ソフィーの世界』をもってきて

 

長いこと借りたままで、こんなにしてしまって申し訳ない

 

というようなことを言ったと思う。

そして、これで代わりに買ってくれ、と図書カードを渡そうとしたのだ。私に。

 

子供ながらに受け取れなかった。

 

いらないです、大丈夫です、

 

そんなことを言ったのだと思う。

 

帰宅して親に告げた時

「そりゃ受け取れないよね、また新しく買おう」と言ってもらった。

私は自分だけで判断した受け取らなかったことが、間違いではなさそうだということに安心した。

 

そのまますっかり忘れていたけれど、最近なぜかふと思い出したのだ。

 

あれは、、、ひどかったな…

 

私は傷ついたんだと思う。

単純に本が返ってこなかったことではなくて、ボロボロの表紙になった本。

 

かわいそうだった。あんな姿になって。

何度も何度も読まれてボロボロになった本は、愛情でいっぱいだ。

でもそうじゃない。それはわかった。

 

正直特別好きな本でもなかった。

でも不思議な気持ちにさせてくれた本ではあった。

 

いや、好きでも好きじゃなくても、本は私にとってはとても大事なものなのだ。それがあんな姿になって。

 

かわいそうだった。救ってあげられなかった。

そんな気持ちになった。

 

あの時私はちゃんと傷ついてたんだな。

大人になってようやく受け入れられたと思った。